技術情報

通信距離の改善

はじめに

無線通信ではしばしばメーカーが目安としている通信距離と実運用で通信できる距離に差異が生じます。差異が起こる主な理由はテスト環境と実運用の環境が異なるためです。

通信距離の改善についてはいくつかのポイントがあり、改善次第ではメーカーが目安としている通信距離より良くなることもあります。

このページでは改善するためのポイントについて記載いたします。

当社が通信距離を確認している環境

当社が通信距離の確認を行う場合なるべく実運用に近い形で行います。通常は障害物のない開けた場所で、機器の地上高を1.5mに固定し、アンテナを垂直に立てた状態で行います。

通信距離の確認条件は機器やメーカーにより異なるため、詳細については多くの場合は製品マニュアルに記載されています。当社の製品で特に記載されていない場合は上記条件で確認している場合が多いです。

通信距離を改善する確認ポイント

では実際に改善するにはどのようなポイントを確認していけば良いのでしょうか。ざっくり挙げるとアンテナ、設置場所、周辺環境などがあります。具体的には以下に記載します。

アンテナ

アンテナの変更は効果的な改善方法の一つです。機器にアンテナが内蔵されている場合や取替え(変更)ができない場合を除き、アンテナを変更するという選択肢は有効な手段の一つです。電波を送信する機器の場合、法令等の関係もありメーカー等が指定したアンテナを使う必要がありますので、指定されたアンテナからできる限り条件の良いアンテナを選びます。受信のみの機器の場合は高ゲインや指向性タイプのアンテナを選択することもできます。ポイントは以下の通りです。

・ 短縮型のアンテナを使用している場合、短縮型でないアンテナを選択する。

・ ホイップアンテナ(モノポールアンテナ)の場合、エレメントの片側をGNDで代用しているため、設置状況によりアンテナゲインが下がります。GNDに依存しないダイポールアンテナ等に変更する。

・ 高ゲインや指向性のあるアンテナを選択できるのであれば、よりゲインの高いアンテナを選択する。

ただし以下のようなデメリットもあるため、使用する状況に応じて選択する必要があります。

・ ゲインを高くすると一般的にアンテナサイズも大きくなる。

・ 指向性のあるアンテナは全方向から受信できないため、決まった場所同士の通信には剥いているが、異なる複数の場所から通信する場合や複数の機器と通信するような用途には向かない。

性能だけ見るとゲインの高いアンテナを使用した方が通信距離が良くなりますが、設置場所や使用状況に応じて使用環境に合ったアンテナを選択する必要があります。

設置場所

設置場所(位置)はアンテナと共に通信距離が決まる大きな要因になります。無線機器(アンテナ)は一般的に高いところで障害物のない見通しが良いところに設置すると通信距離が長くなります。

地上高

一般的にアンテナは高いところに設置した方が見通しが良くなるため通信距離が長くなります。フレネルゾーンが確保できること、地上高を高くしたことによりお互いのアンテナ間に障害物がなくなる事が主な要因です。参考までに以下に地上高1mの場合と2mの場合で2波モデルをシミュレーションした結果を示します。

429MHz お互いを1mの高さに設置した場合

429MHz お互いを2mの高さに設置した場合

例えば基準感度を-110dBmとした場合、高さが1mの場合は1280mに対し、高さが2mの場合は2000m離れていても-106dBmの信号強度で受信する事ができる結果になります。

注意しないといけないのは屋外の場合、地上高をあまり高くし過ぎてしまうと落雷の影響を受けやすくなる事です。また高い周波数を使用する場合、特に近距離では直接届く直接波と地面などに反射して届く反射波の合成波による受信信号レベルが落ち込むポイントが発生しやすくなりますので注意が必要です。

偏波

アンテナの偏波(垂直・水平)を合わせることも重要です。当社が主に扱っている400MHz帯の周波数の場合、一般的には地面からの反射の影響を受けにくいようにアンテナを地面に対して垂直(垂直偏波)に設置します。参考までに地面に対して(水平)平行に設置した場合は水平偏波になります。同じ場所に設置しても送受信間の偏波が異なる場合、受信信号レベルが下がります。

障害物

アンテナ周辺に金属などがある場合、電波の飛びに影響が出ます。アンテナの周辺はできる限り何もないところに設置する必要があります。

また送・受信のアンテナ間は見通しが利くところに設置する必要があります。お互いのアンテナが見通せない環境では受信信号レベルが弱くなり通信距離が短くなります。お互いのアンテナの見通しがよい場所を選んで設置する必要があります。

周辺環境

無線通信は有線での通信と異なりオープンな環境になりますので周辺環境の影響を受けます。

ノイズ

無線通信では受信した受信信号レベルとノイズレベルの比(S/N比)が一定以上必要になります。受信信号レベルばかり注目しがちですが、せっかく受信信号レベルが上がるように改善してもノイズレベルが高い状態だとうまく通信することができません。FSKの場合S/N比は10dB程度必要ですが、安定した通信を考えるとできれば20dB以上確保したいところです。

ノイズレベルは何も電波を受信していない時にRSSI(受信信号レベル)を確認する事で把握できます。ノイズの要因については「電波とは」の記事の主なフェージング要因に記載していますが、いずれにしてもできる限りノイズレベルを低くする必要があります。主な方法については以下のような物があります。

無線機器によってはキャリアセンス(電波を発信する前に一定レベルの信号がないか確認してから送信を行う)機能が搭載されています。例えば429MHzを使用するMU-3-429は法令等により約-100dBm以上の信号(ノイズも含む)がある場合は電波を送信する事ができません。ノイズレベルは環境により変動しますので、安定的な通信を行うにはキャリアセンスレベルに対して十分なマージンを持ったレベルまでノイズレベルを下げる必要があります。

ノイズ源の特定

まずはRSSIの確認等を行いノイズ(RSSIが高くなる要因)の特定を行います。主なノイズ源としてはモーター、エンジン、LEDなどのインバーター、電源のスイッチングノイズが挙げられます。また忘れがちですが無線機器を組込んだ機器自体からノイズが発生している場合もあります。良くあるケースとしてCPU、液晶表示器等からのノイズが挙げられます。

上記以外にも他の無線機器、特に同じ周波数帯を使用した無線機器から影響を受けている場合もあります。周辺で自システム以外の無線機器がないか確認する事も重要になります。

ノイズ源から遠ざける

ノイズ源が特定できたら無線機器(アンテナ)をできる限りそのノイズ源から遠ざけます。遠ざける方法としてはノイズ源と物理的な距離を取る以外にも、金属などでノイズ源を覆う(隔離)、金属でノイズ源と隔てるなどが挙げられます。その他には無線機器とその他の機器で電源を分ける、同じくGNDを別々に取る、地面と接地するなどの対策が有効な場合もあります。機器に接続する配線にノイズがある場合もありますので、その場合は各ラインにノイズフィルタを挿入するなどの対策も有効です。

周波数帯・周波数CHを変える

特定の周波数CHだけノイズが大きい場合、ノイズの少ない周波数CHに変更して使用する方法もあります。ただしその場合は時間や環境の変化によりノイズの周波数が変化する可能性がありますので注意深く確認する必要があります。もし異なる周波数帯の選択肢がある場合、周波数帯を変更することも有効です。

その他

その他には振動やショックによる周波数変動やスパイクノイズが原因になることもあります。無線機器は高い周波数で通信を行うため、振動等により周波数が変動することにより通信距離が短くなったり通信が途切れる場合があります。できる限り振動等の影響を受けないように、例えば緩衝材を機器の間に入れる等の対策をする必要があります。

また機器の経年劣化による影響もあります。無線機器は年数が経過すると機器間の周波数ズレが大きくなります。送受信機間で周波数のズレが大きくなると通信距離が短くなったり、場合によっては通信ができないなどの通信障害が発生する場合があります。無線機器については定期的に機器の交換または点検を行う事をお勧めいたします。

最後に

無線通信は有線とは異なりオープンな環境での通信となりますので周辺環境の影響を強く受けます。ここではいくつかの例を挙げましたが、上記以外にも様々な要因があります。いずれにしてもまずは不具合が発生している要因を特定し対策を取ることが重要になります。

また通信環境は時間帯や周辺環境の変化により一定ではないため、運用開始後も定期的に通信環境の確認、場合によっては周波数CHの変更などを行う必要があります。

この記事が皆さんの通信環境の改善に少しでもお役に立てると幸いです。